【医師監修】従業員の健康管理、健診だけで十分?企業が見直すべき福利厚生と健康経営
最終更新:2026年6月
2025年、政府は「攻めの予防医療」の推進を骨太の方針に盛り込み(※1)、企業による従業員の健康支援への関心がこれまで以上に高まっています。しかし多くの企業では、毎年の健康診断を実施することで”やるべきことはやっている”と感じているのではないでしょうか。
健診は従業員の健康管理の大切な入口です。一方で、健診だけでは拾えない課題、メンタル不調、受診の先送り、ストレスの蓄積などに悩む人事担当者も少なくありません。
本記事では、健診の先にある健康経営の考え方と、企業が今見直せる福利厚生の選択肢を整理します。
(※1)骨太の方針に反映へ、国策始動で注目高まる「攻めの予防医療」
※本記事の最終更新:2026年6月6日
Contents
企業が従業員の健康管理をする義務とは
まず、企業が法的に求められている健康管理の内容を整理します。「やるべきこと」の全体像を知ることが、次のステップを考える出発点になります。
健康診断の実施義務
労働安全衛生法では、事業者は常時使用する労働者に対して、雇入れ時および年1回の定期健康診断を実施することが義務付けられています(同法第66条)。これはすべての規模の企業に適用されるため、ほとんどの人事担当者にとっては馴染みのある業務でしょう。
ただし、健診の実施だけが義務ではありません。健診結果に異常の所見がある従業員に対しては、医師の意見を聴取し、必要に応じて就業上の措置を取ることも事業者の責務とされています。「健診を受けさせて終わり」では、法的な対応として十分ではない場合があります。
ストレスチェックの義務化
2015年12月から、常時50人以上の従業員を使用する事業場では、年1回のストレスチェックの実施が義務化されています(労働安全衛生法第66条の10)。
ストレスチェックの目的は、労働者が自身のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことです。また、高ストレスと判定された従業員が申し出た場合は、医師による面接指導を実施することも事業者に義務付けられています。
さらに注目すべき動きがあります。2025年5月、改正労働安全衛生法が公布され、これまで努力義務とされていた従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化される見通しとなりました。施行は最長でも2028年5月までとされており、小規模な企業・スタートアップも対象となります。
安全配慮義務
法律上の規定だけでなく、事業者には「安全配慮義務」という概念があります。これは、従業員が健康かつ安全に働けるよう、必要な措置を取る義務です。メンタルヘルス不調のサインを見逃して対応が遅れた場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われるリスクもあります。
これらを踏まえると、健診の実施は「義務の最低ライン」に過ぎないことがわかります。
健診・ストレスチェックだけでは拾えない課題
義務をきちんと果たしている企業でも、現場では解決できていない健康課題が残っています。
健診結果の「その後」が抜け落ちている
健診で何らかの異常値が見つかったとしても、再検査や通院につながっていない従業員は少なくありません。厚生労働省の調査によれば、健診で要精密検査・要治療と判定された人のうち、実際に医療機関を受診していない割合は相当数にのぼります。
多忙な日々の中で「少し数値が悪かったけれど、自覚症状はないから」と後回しにしてしまう。これが受診控えの典型的なパターンです。生活習慣病は自覚症状が出にくい疾患が多く、放置することで重症化するリスクがあります。
ストレスチェック後のフォローができていない
ストレスチェックを実施している企業でも、「高ストレス者への対応が十分にできていない」という声をよく耳にします。高ストレスと判定された従業員が自ら面接指導を申し出ることは少なく、結果として問題が表面化しないまま蓄積していくケースがあります。
ストレスチェックはあくまで「気づき」のツールです。その結果をもとに、従業員が安心して相談できる場や仕組みを整えることが、本来の目的を果たすことにつながります。
「病院に行くほどでもない」という感覚の危うさ
身体的な不調であれ、メンタル面の悩みであれ、従業員が「これくらいで受診するのは大げさかな」と感じる場面は多くあります。特にメンタル不調は、症状が曖昧なまま進行しやすく、本人も周囲も気づきにくいという特徴があります。
「なんとなくやる気が出ない」「眠れない日が続いている」「以前より集中できない」こうした初期サインを見逃さないためには、従業員が気軽に相談できる窓口が必要です。

スタートアップ・成長期企業でメンタル不調が起きやすい理由
近年、スタートアップや急成長中の中小企業において、従業員のメンタル不調が顕在化するケースが増えています。その背景には、この規模・フェーズの企業に特有の構造的な要因があります。
少人数ゆえの「役割過多」
スタートアップや小規模企業では、一人ひとりが複数の役割を担うことが常態化しています。自分の専門業務をこなしながら、採用・総務・経理・顧客対応まで兼任するというケースも珍しくありません。業務量の多さと責任の重さが重なることで、慢性的な疲労やプレッシャーが蓄積しやすい環境があります。
変化のスピードと不確実性
事業の方向性が頻繁に変わる、組織体制が短期間で変わる、ロールモデルとなる先輩がいない。こうした環境の不確実性は、従業員の心理的な安定を損なう要因になります。特に入社して間もない若手社員は、変化への適応だけで大きなエネルギーを消耗します。
相談できる場がない
大企業には産業医や社内相談窓口が整備されていることが多いですが、中小企業・スタートアップでは、そのような体制を持つケースはまだ多くありません。困ったときに相談できる先がない、または相談すること自体が「弱さ」と捉えられる文化がある場合、問題は内側に溜まり続けます。
精神障害の労災件数は過去最多水準
厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害による労災支給決定件数は増加が続いており、2024年度は1,055件と6年連続で増加。2023年度の883件から172件増加し、初めて1,000件台に達しました(※2)。
メンタル不調による休職・離職は、本人にとって辛いことはもちろん、企業側にとっても採用コスト・引き継ぎ対応・チームへの影響など、経営上のダメージは小さくありません。

健康経営とは何か、なぜ今注目されているのか
「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えてきましたが、大企業向けのものというイメージを持っている方もいるかもしれません。実際には、規模を問わず取り組める考え方です。
健康経営の定義
健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点から戦略的に取り組むことを指します。経済産業省が推進するこの概念の背景には、「従業員が健康であること」が生産性の向上・離職率の低下・採用力の強化につながる、という考え方があります。
健康管理をコストとして捉えるのではなく、企業の成長を支える投資として位置づけるのが健康経営の本質です。
健康経営優良法人認定制度
経済産業省と日本健康会議が共同で推進する「健康経営優良法人認定制度」では、健康経営に取り組む法人を認定・公表しています。
大規模法人部門(ホワイト500)と中小規模法人部門(ブライト500)があり、中小企業でも申請・認定が可能です。2025年3月に発表された「健康経営優良法人2025」では、中小規模法人部門に19,796法人が認定されており、前年(16,733法人)から約3,000件増加しています。健康経営への取り組みは着実に広がっています。
認定を受けるメリット
健康経営優良法人に認定されることで、以下のようなメリットが期待できます。
- 採用・定着への好影響
健康経営に取り組む企業は「働きやすい職場」として認識されやすく、求職者へのアピールになります。実際に、健康経営優良法人2025に選定された企業の離職率は6.1%と、全国平均の12.1%を大きく下回るというデータもあります。
- 金融機関・取引先からの評価向上
一部の金融機関では、健康経営に取り組む企業に対して融資の優遇措置を設けています。また、取引先や顧客からの信頼性向上にもつながります。
- 従業員のモチベーション・生産性向上
健康管理に取り組む環境が整うことで、従業員自身が健康意識を持ちやすくなります。欠勤・休職の抑制や、集中力・仕事への意欲の向上が期待できます。
2025年の政策動向との連動
2025年5月、政府は「攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議」(※3)を開催し、予防医療の推進を骨太の方針に反映することを決定しました。企業による従業員の健康支援を充実させることは、個別企業の取り組みとしてだけでなく、国全体の方向性とも合致しています。
(※3)内閣官房 攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議
福利厚生として健康支援を充実させる選択肢
健診・ストレスチェックという「義務のベースライン」の上に、どのような選択肢があるかを整理します。
1、産業医との契約
従業員数50人以上の事業場では、産業医の選任が義務付けられています。50人未満でも、産業医と契約することは可能です。
産業医は、健診結果のフォローアップ、高ストレス者への面接指導、職場環境改善の助言など、企業の健康管理を医療の視点からサポートします。ただし、費用や運用体制の整備が必要なため、特に小規模企業にとってはハードルを感じる部分もあるかもしれません。
2、EAP(従業員支援プログラム)
EAP(Employee Assistance Program)は、従業員が抱える仕事・家庭・健康上の問題に対して、専門家によるカウンセリングや相談サービスを提供するプログラムです。外部のEAP機関と契約することで、産業医を置かない企業でも専門的なメンタルサポートを提供できます。
3、セルフケアコンテンツ・健康情報の提供
外部サービスとの契約に限らず、社内で健康に関する情報発信や研修を行うことも、健康経営の一環です。生活習慣改善のセミナー、ストレスマネジメントの研修、睡眠や食事に関するコンテンツの提供など、比較的低コストで始められる取り組みもあります。
4、オンライン医療相談サービス
近年、福利厚生の一環として導入する企業が増えているのが、オンライン医療相談サービスです。
従業員がスマートフォンやPCから医師・医療専門家に相談できるこのサービスは、「病院に行くほどではないかもしれないけど、誰かに聞いてみたい」という段階での相談に特に適しています。
- 受診判断に迷うとき(「これは病院に行くべき症状か?」)
- メンタル面の初期サイン(「最近眠れていない、誰かに話したい」)
- 専門科がわからないとき(「どの科を受診すればいいかわからない」)
こうした場面で気軽に使えることが、受診の先送りを防ぎ、重症化を未然に防ぐことにつながります。
また、直接医療機関を受診するよりも心理的ハードルが低く、特にメンタル面の悩みについて相談しやすいという点も、現場からの声として挙げられています。
Medifellowのオンライン医療相談について
Medifellowは、現役医師が代表を務めるオンライン医療相談サービスです。全診療科33科に対応。企業・団体向けに、従業員の健康相談窓口として活用いただける法人向けプランをご用意しています。既存の健保制度と組み合わせた導入も可能です。

何から始めるか——規模別の取り組みロードマップ
健康経営と聞くと、何か大きな仕組みを整えなければならないように感じるかもしれません。しかし、取り組みに「正解の順番」はなく、自社の規模や現状の課題に合わせて一歩ずつ進めることが重要です。
〜30人規模のスタートアップ・小規模企業
まず着手できること:
- 定期健診の実施と、結果の確認・フォロー体制の整備
- ストレスチェックの任意実施(義務化前でも早めに導入しておくメリットがある)
- オンライン医療相談サービスの導入(低コストで始められる相談窓口として)
この規模では、産業医の常駐は難しいことも多いですが、「いざというときに相談できる場がある」という環境を整えることが最初の一歩になります。
30〜100人規模の中小企業
次のステップとして:
- ストレスチェックの義務的実施と、高ストレス者への面接指導体制の整備
- EAPや産業医との契約による専門サポートの強化
- 健康経営優良法人認定の取得を視野に入れた取り組み開始
この規模では、制度の整備と現場への浸透を並行して進めることが求められます。従業員が制度の存在を知らなければ、意味をなしません。社内での周知・啓発も重要な取り組みの一つです。
100人以上の企業
体制強化のフェーズとして:
- 産業医の選任義務を満たした上で、より積極的な関与体制の構築
- 健康経営優良法人認定(ブライト500・ホワイト500)の取得
- データに基づく健康課題の分析と、PDCAを回した継続的改善
健康経営を対外的にアピールするフェーズとして、採用ブランディングや取引先への信頼性向上にも活用できます。
まとめ
本記事のポイントを振り返ります。
- 健診の実施は「義務の最低ライン」であり、その先にある健康課題(受診控え・メンタル不調・ストレスの蓄積)への対応が求められている
- スタートアップや成長期の中小企業は、役割過多・不確実性・相談場所の不足から、メンタル不調が起きやすい構造的な特徴がある
- 2025年の法改正により、50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される見通し(2028年施行予定)
- 健康経営は大企業だけのものではなく、中小企業でも認定取得が増加しており、採用・定着・生産性向上に実際の効果が出ている
- 福利厚生として「オンライン医療相談」を取り入れることで、気軽に相談できる環境を低コストで整備できる
従業員が安心して働ける環境は、一日でつくれるものではありません。しかし、最初の一歩は小さくても構いません。今の自社に何が足りているか・足りていないかを把握することが、健康経営の出発点です。
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本記事は医師監修のもと作成しています。記載の情報は2025年6月時点のものです。法令の詳細については、所管の行政機関の公式情報をご確認ください。
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編集者プロフィール

- 「一人ひとりの心と役割が輝く社会を創る」ことをミッションに、マーケティング、カスタマーサクセス(コミュニティ)、PRの一貫したコミュニケーション作りを担う。大阪教育大学卒業。卒業後は教育事業会社で広報・採用を行い、その後飲食店向けFinTech&SaaS企業にてProductPR、カスタマーサクセス、コミュニティ運営を担当。同時に、日本の誇れる医療と安心を世界中に届けるビジョンに共感し、広報担当として株式会社Medifellowに参画。広報、マーケティング、グラフィックデザインを行っている。

