アメリカ医療事情の視察報告(執筆・監修 丹羽崇医師)

5月19日から27日にかけて、アメリカ出張へ行ってまいりました。医師としての活動である学会発表と、現地の医療事情の視察を兼ねての渡航になります。

まずはワシントンDCで開催されたアメリカ胸部学会(American Thoracic Society)において、呼吸器病理AIの臨床的有用性について報告を行いました。患者さんの肺からの採取組織をAIで学習したら、どのように診断するかをトライしたという発表です。結果、人間の診断よりも効率的な分類ができることが判明、今後の臨床応用にむけてさらなるブラッシュアップが望まれます。学会参加の多国籍医師ら(アメリカ、イタリア、インド、ブラジル等)からも非常に興味深いとの意見をいただき、今後も引き続き注力の研究課題となります。

さて、アメリカの医療事情の視察です。

この学会期間中、ワシントン郊外にあるInova Schar Cancer InstituteのDr. Amit K. Mahajanを訪ねました。こちらでは、重症の肺気腫患者さんの呼吸苦を改善する気管支鏡治療を多数実施(肺容量減量バルブ留置と呼ばれます)、その施術を学ぶとともに、この治療におけるアメリカ内事情を伺ってきました。非常に高価な治療なのですが、驚くべきことにアメリカでは、この気管支鏡治療方法はすでに公的保険でカバーされているとのこと。アメリカへの印象で「高価な治療は個人保険でしかカバーされない」と思っていましたが、多数の患者さんが公的保険によりこの治療を受けているそうです(私が訪れたときは1日に4人実施)。また、効率的なこの治療の実施のために、医師・看護師だけでなく、理学療法士や治療コーディネーターといった職種の方々がチームとなって活動、それらメンバーは全てDr. Mahajanの指揮下に専属ということでした。つまり、その治療を公的保険で実施の場合でも、チームを維持できる報酬を得られるということです。アメリカの公的保険制度を見直した瞬間です。

続いてニューヨークに移動、Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのDr. Bernard J. Parkを訪ねました。この病院は世界的に有数のがん診療拠点であり(腫瘍専門の医師で知らなければモグリといっても差し支えない)、ここで胸部外科のトップの立場でRobotic surgeryを牽引している先生とお会いできました。この訪問の目的は、最新のロボット気管支鏡を見学するためです。

非常に熱い先生で、ロボット気管支鏡の利点と将来性について貴重な意見交換ができました。こちらも驚くべきことに、アメリカでは最初から公的保険でカバーされているとのことです。同行の韓国のがんセンターの医師も驚愕で、我々の国では導入時にどうなるだろうか・・・と二人で天を仰ぎました。

ただ、それよりも驚いたのはそのロボットによる施術精度です。まぁ、こりゃ人間の手は敵わなくなるな・・・という、素晴らしい精度と安定性です。いずれ日本にも入ってくる予定ですので、そのお手伝いをしたいと考えています。

その後はサンフランシスコに移動、ロボット気管支鏡のトレーニングも受け、開発についての意見交換なども行い、帰国の途につきました。アメリカでは医療系機器開発企業に現場の医師がタイアップで活動が当たり前に行われており、最前線の医師からのフィードバックをエンジニアとマーケターが形にしていく、というサイクルが完成されていました。やはり、医師だけの意見だったりビジネスだけの視点でイノベーティブなデバイスが開発されることはなく、両方の意見をまとめた視野の広いアクションがBreakthroughを産むのだろうと実感いたしました。

昨年10月のマルセイユ出張に引き続く海外出張(近日報告します!)で、今回は本格的に海外医療事情について観察できました。Medifellowの活動にこの経験値をフィードバックしていきますのでご期待ください。

海外学会会場はこんな感じ。ここは一番大きな発表ホールです。いつかこんなメインホールでfeatured presentationとなるような仕事をしたいものです。それにしても派手ですね!日本の呼吸器関連学会はもっともっとコンサバでお堅い感じですよ。

こちらがINOVA Medicals。いくつかビルが敷地内にあり、とても広いです。

近くにはSteven F. Udvar-Hazy Centerという、航空史を彩る飛行機の実物(コンコルドやスペースシャトル!)が置いてあるSmithsonian博物館別館があります。ワシントンDCに行ったら必見です。

NYに移動、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerへ。アッパーイーストサイドの抜群の立地に大きなビルが建っています。

ロックフェラー財団が研究棟を寄付、スケールが大きいです。角の反対側には結構有名な病院(New York Presbyterian Hospital)もあって、この辺は病院だらけです。

【本記事の執筆・監修 丹羽崇(医師)】

神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器 内科および倉敷中央病院呼吸器内科にて臨床研究管理者・呼吸器インターベンション 指導医を兼務。総合内科専門医・指導医、呼吸器専門医・指導医、気管支鏡専門医・指導医などの資格を有するほか、世界肺癌学会、欧州呼吸器学会、米国胸部学会など国内外学会での活動実績や受賞歴が複数有。

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編集者プロフィール

池田 宇大
池田 宇大株式会社Medifellow
岐阜薬科大学薬学部卒、薬学士。医療機関の経営コンサルティングを経験。大学病院や自治体病院、公的病院の経営改善に従事。その後、HR業界で採用支援コンサルティングを経験。海外駐在員や日本人現地採用、外国人の転職などクロスボーダーの転職・就職支援に従事。