コロナ禍でのオンライン診療 2021年10月20日公開記事
※この記事は2021年10月20日に弊社代表・医師の丹羽がnoteで公開した記事の転載修正版です。
さて、オンライン診療がコロナ蔓延を契機に初診から解禁されてから1年半が経ちました。厚生労働省はコロナ診療に対してなんとかする、といった思惑もあって解禁されたわけですが、はたしてどうだったのか。コロナ診療の最前線に身を置いた医師としての観点から、振り返ってみましょう。
Contents
コロナ患者以外のオンライン診療の実際
コロナ禍で外出を控える一環で、受診控えがかなり生じました。実際、私の周りでもかなり外来患者数が低下したといった話を聞きます。日本肺癌学会の研究では、こういった受診控えにより6.6%もの新規患者が受診機会を逸した可能性があると報告しています。
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
新型コロナ感染症(COVID-19)が肺癌診療に及ぼす影響調査結果
やはり、患者さんらを救うのには、検査ができるかどうかが重要なんですね。ですので、いくら急にオンライン診療を初診から解禁したからといっても、そもそも症状が出現したならば、オンラインでどうこう言ってないで検査目的に受診する必要があるということです。
コロナ患者へのオンライン診療
患者に直接ふれずに診療できるオンライン診療は、コロナ患者に対してとても有用なのではないかと期待されました。しかし、実際にはそううまく事が運びません。
2020年2月から始まったコロナ患者診療ですが、ワクチン接種が開始された2021年4月ごろまでの約1年ちょっとの間、感染して入院してくる人々の多くが高齢者でした。そいうった方々は多くがガラケーであったりでとてもオンライン診療できるような方々ではありませんでした。ですので、コロナ診療が崩壊しかけた(地域によってはした)第4波の時に自宅療養する高齢者の方々というのは、本当に誰も助けがない中でかなり苦しくて不安な状況に陥りました。
しかし、第5波は状況が変わりました。高齢者の80%がワクチン接種済みであったため、コロナ患者の平均年齢がグッと下がったのです。こうなると、みなさんスマホを持ってますのでオンライン診療が可能になります。結果、いろいろなところがオンライン診療に取り組むことになりました。
私の所属する病院では、訪問看護とオンライン診療を組み合わせた形で、コロナ患者さんの自宅に訪問することを選択しました。これは、H30年のオンライン診療指針にも記載されているD to P with Nという形態になります。この形のいいところは、次の点です。
・自宅療養環境を整備(隔離の仕方や療養ポイントの指導など)することで家族内感染を防ぐことが期待できる
・患者さんの状態に合わせて処方行為も可能
・オンライン診療の弱点である「本当はどんな状態なのか」のモニタリングが看護師を通じてかなりのハイクオリティで担保できる
・オンライン診療の利点である「患者に接さずにたくさんの患者さんを頻回に診療できる」ところが生かせる
こうして、のべ60回以上の自宅療養患者へのアプローチを第5波の時に行いました。いろいろありましたが、自宅療養者の方々に大変喜んでいただけたことは医者冥利につきます。でも、やはり課題はいくつかあるもので、きたる(?)第6波に向けて議論すべきところは次のようなところでしょうか。
コロナ患者へのD to P with Nで見えてきたこと
1.みんな自分の症状を説明できるわけではない
コロナ患者さんたちは、発熱やコロナ特有の症状とされるBrain Fog(頭に霧がかかったような状態になってしまって正常な判断ができない状態)のせいで、療養指導の文書や服薬指導の内容などをきっちり守れないことが自宅へのアプローチで判明しました。こういった方々には、今の保健所の自宅療養者安否確認システムの根本的姿勢である「患者から自発的に入力してもらう」では、いくら普段慣れているLINEでの入力とはいえ正確性を欠きます。実際、看護師が訪問してみると、ぜんぜん聞いていた話と違う!といった事例がありました。入院可能な病床数が限られる中で、いかに正確に入院適応者をピックアップするかは、正確な患者状態把握が不可欠です。
2.診療報酬が請求できない
訪問看護と訪問診療は、同時にその報酬を算定することはできません。ですので、D to P with Nとはいえ、遠隔診療を行いつつ訪問看護を行った場合、どちらかの診療行為は無報酬になってしまいます。せっかく自治体とかがコロナ患者に対しての訪問看護や訪問診療に加算をつけたのに、これでは訪問看護ステーションや訪問診療クリニックが参入するのに躊躇してしまうところが出てきてしまします。医療もきちんと医業として成り立たないとやってはいけませんから、これではなかなか広がらないですね。
3.コロナ患者の診療ノウハウが偏っている
私たちはコロナ患者さんを入院で長く受け入れているので、おおよその勘どころは抑えています。だいたいどれくらいでよくなるかな、ですとか。しかし、地域のクリニックさんとかは見たことがありません。見たこともない疾患をオンラインだけで診療することほど、医師にとって技術的にも心理的にも難しいものはありません。ですので、診療知識のシェアが必要です。私たちの地域では、診療体制を経験豊富な病院医師と地域クリニック医師をつなぐ形で構築する動きを始めようとしています。今後、全国的にこの動きは進んでいくのではないでしょうか。
まとめ
さて、コロナ禍でのオンライン診療についてお話してきたことをまとめます。
・一般診療においてはただのオンライン診療は広がりにくいこと
・コロナ患者さんに対してはD to P with Nの形態が有用であったこと
・一般診療レベルでコロナ診療をオンライン化していくには、一般開業医が参画できる仕組みを整える必要があるころ
衆議院議員選挙もありますし、これらを踏まえて、次の波に備える動きが活発化することを期待します。
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編集者プロフィール
- 岐阜薬科大学薬学部卒、薬学士。医療機関の経営コンサルティングを経験。大学病院や自治体病院、公的病院の経営改善に従事。その後、HR業界で採用支援コンサルティングを経験。海外駐在員や日本人現地採用、外国人の転職などクロスボーダーの転職・就職支援に従事。
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